あなたはもうZ.A.T.Oをプレイしたか

あなたは物語を読むのが好きか
あなたは難解で仄暗いが、どこか安心できるような文章と音楽は好きだろうか 
あなたはとある少女の想いを受け取る気はあるだろうか
 
もしそうであるなら、ぜひおすすめしたいビジュアルノベルゲームがある。
「Z.A.T.O.  I Love the World and Everything In It」 である。 
 

制作者はFerry // Nopanamaman 氏
英語圏の製作者であり、公式では日本語対応していない作品である。
また出てくる英語の単語もそれなりに難しいため、日本のユーザーにとっては敷居が高いゲームではある。
 ※しかし、ここ最近では日本のインディーズゲームの界隈でも話題に上がるようになった。それは、素晴らしい日本語パッチを制作していただいた有志の方がいたからである。ほんとうにありがたい。翻訳文も非常に読みやすく、そしてZ.A.T.Oへのこだわりの感じられる、とても良い翻訳なので、ぜひ日本語パッチを導入してプレイしていただきたい。 
 
 物語の舞台は、1986年のソ連のとあるヴォルクタ5という小さな街。ここは人の出入りが少ない、ある程度の富裕層が集まっている街である。
そこに住む少女が一人、忽然と行方不明になってしまうことから物語は始まる。語り部である主人公は Asya(以下:アーシャ)、その行方不明となった少女、Ira(以下:イーラ)とはクラスメイトで、イーラはかつて、クラスメイトにからかわれていたアーシャを助けたことがある。そのため、アーシャはイーラの失踪に対して、思うところがあったのだった。そのため、アーシャは、イーラと親しいという友人Marina(以下:マリーナ)とイーラが行方不明になった真相を探すために動き始める
 
初めに言っておきたいことだが、できれば初見は自分ひとりでプレイすることを強くお勧めしたい。昨今ではゲーム実況や配信などで人のゲームを見る機会も非常に増えていると思う。なんなら「Z.A.T.O」とGoogleで調べると真っ先にこのゲームのプレイを配信した動画が出てくるくらいだ。通常であればそのような経緯でゲームに興味を持つことを私は好ましく思っている。
しかし、このゲームを初めて見るときは、ぜひ、ひとりで、自分の手で、プレイしてみてほしい。物語の形式は、非常にシンプルで、分岐や選択肢などは存在しない。1つのエンディングにたどり着くだけの物語である。しかし、 である。
 
なぜこんなことをいうかというと、このゲームは、非常に現実と虚構があいまいになるほどに難解で、 手の上に乗った雪のように繊細な物語だと思っているからである。エンディングをひとりで迎えた時の感情や感想を一度、自分の中でかみ砕いてほしい。それほどの愛おしさをこのゲームに私は感じたからである。
 
この物語を難解にしているのは、おもに主人公、アーシャの語り口にある。
アーシャは詩を書くのが趣味の少女で、妄想癖があるおとなしい少女だ。そのためか、クラスでは、同級生であるVadim(以下:ヴァジム)という少年を筆頭に嫌がらせを受けることもしばしばあるような場面もある。
そして彼女はいわゆる「宿命論」に近い考えを持っている。
 
物事はすべて行くべきところへたどり着く。起きる出来事もすべては「世界が自分を正しい道へと導くためのもの」だと思っている。しかし、彼女はそれに反発するのではなく、むしろそうあることが喜ばしい、と思っているのだ。そのためか、自己卑下をする部分があるが、それを悲観しているようには見えない。むしろ、矮小な自分のようなものを世界は行くように導いてくれているのだから、といった様子でもある。 彼女は世界を愛しているのだ。
 
そのため、かなり現実離れした妄想や、宿命論的なモノローグも多く入る。そして、物語の舞台である1980年代のソ連のネタも多数ある。
物語が進んでいくにつれて、最初の方では、簡単にわかっていたような妄想的な現象も徐々に彼女は否定しなくなっていく。いや、それはむしろ妄想ではなく 彼女にとっては現実なのだから否定しようがない。そのため、文章はどんどん虚構と現実、見ているものと実際に起きたことと"現実"、そして自他との境すらもあいまいに入り乱れていく。言ってしまえばこの物語を難解と思わせる原因の一つであろう。
 
しかし、それがこの物語の良さもである。
そのため、物語で描かれたすべての現象は、すべてを語らずに物語は収まってしまう。だからこそ、ひとりひとりによって解釈は異なるし、各主要キャラクターにも感じる思いは違うだろう。そこに正解はないはずだ。だからこそ、それぞれがまずは、ひとりでこの物語に向き合ってみてほしい、とそう思ったのだ。
 
 
Z.A.T.Oを作り上げているのは、素晴らしい物語だけではない。その物語を彩るキャラクターの絵、背景の絵、そして音楽である。
▲立ち絵の様子
 ▲一枚絵の様子
 
真っ先にかわいらしいキャラクターデザインが目を惹く。そして作品の空気感を演出する色味と背景でプレイヤーを一気に作品の世界へ没入させる。そしてプレイヤーの目線を遮らない控えめなUIデザインも個人的にはうれしい。
舞台が1980年代と今から30年ほど近く過去、しかも場所がソ連の人の行き来が少ない都市である。極夜が訪れるような高緯度な場所であり、季節は冬、12月がメインで語られるため、物語からは閉塞感がひしひしと伝わってくる。それをさらに視覚としても補填するのが、背景だ。落ち着いた色味と、白黒写真にノイズをかけたノベルゲーム特有の背景は、さらに世界の閉塞さと過去の温かみのようなものを伝えてくる。
 
細かい話だが、フォントも個人的には好きな箇所だ。タイプライターなどのアナログっぽいフォントは作品のレトロ感を醸し出している。上記で紹介した日本語パッチは、フォントがことなるのだが、こちらもとても物語の雰囲気に合っていておすすめである。 
▲日本語版の一幕

実際のゲーム内音楽はプレイしていただいてみると、その魅力は伝わるだろう。
閉塞的で、一枚の分厚い雲がかかっているかのような曲、しんしんと積る雪の中にいるかのような曲、緊張感を感じる曲、狂気性の感じる曲、と場面に合わせた様々な曲が物語を彩っていく。
様々な曲はありつつも、どこか全体的にセピア色をしている、というか、どこか1つ膜をを通したようなもの悲しさが地面を這っている。まるで廃墟を一人で歩いているかのような、世界が滅んだあとに、ひとりで誰もいない街を歩いているかのような不安感とほんの少しのぞわぞわとする高揚感を感じられる曲たちだ。
 
私の勝手な持論だが、「音楽がよい」と思う作品は、たいてい自分にとって良い作品なのである。
上記に記載させていただいた、イントロの曲で好きかどうかを判断していただきたい。 イントロの曲自体は物語上で登場することはないが、非常にゲームの雰囲気を反映した素敵な楽曲である。
 
 
 
ここまで読んでくれた方はよほどZ.A.T.Oが気になっている方、もしくは既プレイヤーのみだろう。 まずは感謝を。読んでいただきありがとうございました。
 
最後に、Z.A.T.Oの舞台についての補足をしておきたい。
ZATOとは、実際にソ連に存在したとされている閉鎖行政地域のことである。それらは閉鎖都市と呼ばれた。つまり、この作品の舞台のモデルであろう。 
閉鎖都市は、軍事兵器の開発や、科学研究、宇宙開発目的などで建設された都市であり、それらは国家防衛の機密を担っていたため、地図には載らず、人の立ち入りが非常に制限されていた。住所も外部へ出すことは許されなかったため、都市は正式な名称を持たず、ゴリツィノ2などといった暗号名で呼ばれていた。
その都市で暮らすのは、軍事関係者やその家族がほとんどで、住民の都市外への移住も簡単ではなく、多くの住民が生涯をその街で暮らすことが多かったのだという。そうして、ソ連崩壊後には、多くの閉鎖都市は廃止された。
そんな地域をモデルにしたヴォルクタ5での彼女らの行く末を見届けていただけたら幸いである。
 
そうして、物語を自分なりにかみ砕いてから、人とこの物語について語ってほしい。どんなに的外れでも、感想を書いてほしい。「難しくてわからなかった」や、「いまいちピンとこなかった」というものでも構わない。
ただ、この物語という存在をまたほかのだれかに届けてほしい。彼女の声をあなたの手で受け取り、あなたの手で届けてほしい。
少なくとも私は、そう思った作品だったため、このような駄文をだらだらと書いてしまった。
 
重ねて、読んでいただきありがとうございました。 あなたにとって、Z.A.T.Oが大切なゲームになっていただけたら幸いです。